海、かたちのない、単純に比類のない海。
マルグリット・デュラスの「愛人(原題:L'AMANT)」を読了。河出文庫(清水徹=訳)のものです。外国文学はその翻訳のせいで読みづらくてとても苦手なのですが、これは訳者のためかそれともデュラス自身のためか、ずばぬけて読みやすい翻訳でした。私の身体にすんなりと入ってきて驚いたほどです。時制も人称もないまぜに展開されるまるで夢や幻のような情景が、表紙にほほえむ少女時代のデュラスを呼び起こして鮮やか。この作品は告白を主題とした私小説とも、またまったくそうでもないとも言えます。好き嫌いの分かれそうな内容および文体ではありますが、私は好きです。
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