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いったい私はあの檸檬が好きだ

梶井基次郎の「檸檬」を読了。角川文庫と人気てぬぐい店「かまわぬ」とのコラボだという、檸檬の模様がかわいらしい装丁に惹かれ手にとりました。いつか読みたいと思っていたのも事実で、どの本にも言えることですがこのタイミングで読んだということが面白い。きちんと栄養になっているのを感じます。

氏の短い生涯とその作家生活を代表する短編や小品をまとめた本書ですが、晩年に近づくにつれ、作品のなかの登場人物までまるで梶井本人のように病鬱としてくる様は、どこか憐れでありながらも清々しい。肺病にともなう病鬱こそがすべての作品に流れる重厚な空気を形作っているため、氏も自ら言っているように、健康な肉体をもってしては書くことのできない極致でありますれば、ずっと長生きして多くの作品を世に送り出してほしかったなどとは言えません。しかし現代では死に至ることなど稀な病気で、このすばらしい才能が消えてしまったというのは無念です。「檸檬」と「Kの昇天」、それから「桜の樹の下には」がとくに幻想的で好みでした。巻末にある、萩原朔太郎・三好達治の両氏による「同時代人の回想」もおもしろい。私はこのごろ、近代作家たちの交流事情に興味津津のようです。
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